<54>六華苑・旧諸戸清六邸

 今回は、桑名市にある六華苑・旧諸戸清六邸を紹介しましょう。
 六華苑は、明治時代の洋風建築の重鎮、ジョサイア・コンドルが設計した建築物として知られます。その美しい外観が人気を呼び、桑名の観光名所の1つとなっています。
 六華苑は、山林王として知られた二代目諸戸清六の新居として、大正2(1913)年に建築されたものです。洋館と和館が隣接する珍しい建築物で、和館の前には池泉回遊式の庭園が広がっています(右写真)。
 和館と洋館は国の重要文化財、庭園は国の名勝に指定され、苑内一帯が1つの「博物館」となっています。
 来週4月22日からは、桑名市を中心に「2016年ジュニアサミット」が開催されます。伊勢志摩サミット関連の一大イベントです。そしてGWが近づき、新緑まぶしい季節となりました。今盛り上がりを見せる桑名を訪れ、庭園をゆっくり眺めならが桑名の歴史散歩をしてみてはいかがでしょう。

◆借金苦から山林王へ―初代諸戸清六のあゆみ
 諸戸家は江戸時代、桑名市の北隣・桑名郡木曽岬町の加路戸新田で代々庄屋を努めていました。
 ところが江戸末期、清九郎の代の時、塩の商売が失敗して2,000両もの多額の負債を抱えてしまいました。その子清六(初代清六)は、父の死後わずか18歳で家を継ぐと、桑名に移住して米穀業を始めました。その商売が成功し、わずか3年で完済してしまいます。
 明治以後は三重県令や政府高官などと交流を深め、大蔵省御用米商人となるなど、政商としての色彩を強めていきました。ほかにも渋沢栄一、三菱財閥などとも親交を深めていきました。
 明治23(1890)年、多気郡大台町三瀬谷の山林を購入して植林事業を開始。その後も各地で田畑を開墾したり山林を植林していき、日本一の大地主へと上りつめました。
 六華苑は、その息子二代目清六が結婚する際、新居として建築したものです。ジョサイア・コンドルという高名な建築家がわざわざ桑名まで来たということ自体異例のことですが、これも財界の中で諸戸家の名声が高かったことの証明でしょう。コンドルは鹿鳴館や岩崎弥太郎邸など、東京の有名な洋風建築を手がけましたが、地方で手がけたのは、全国で唯一、六華苑だけなのです。

◆桑名の発展に寄与
 巨万の富を蓄えた初代清六ですが、桑名のまちづくりにも尽力しました。
 桑名は土地が低く海も近いため、長年塩害に悩まされた土地でした。井戸を掘っても塩水が出るほどで、水環境は劣悪で、病気が蔓延しやすい土地でした。さらに桑名町(当時)は財政的に非常に苦しく、水道を敷設できませんでした。
 そうした現状を改善しようと、初代清六が私財を出して桑名の街に水道を引きました。桑名の上水道は全国で7番目に完成した上水道で、市民にも無料で開放しました(右写真・洋館内にある説明看板)。六華苑の洋館1階には洋式トイレがありますが、これは三重県初の水洗トイレです。手洗いもあって、大正時代当時から桑名には水道施設が完備されていたことが分かります。
 新しいものを先取りし、桑名のインフラ整備に大きく寄与した初代諸戸清六。六華苑の主・二代目清六はさらに林業、不動産などの企業を確立し、現代まで続く諸戸グループの礎を築きました。

◆戦災で奇跡的に残った
 戦争末期、桑名も大空襲に遭いました。市街地の90%以上が焼失し、桑名は焼け野原になりました。
 しかし、六華苑だけは奇跡的に残ったのです。爆風で表玄関のステンドグラス(右写真)が唯一吹き飛んだのみで、それ以外は全て建築当時のまま残りました。
 そんな苦難の時代を乗り越えて現代まで残った六華苑。平和な時代となった今では、観光客やカメラマンが大勢訪れ、静かな時の流れに心落ち着くひとときを楽しんでいます。



 4月17日付の伊勢新聞「博学」コーナーでも、六華苑・旧諸戸清六邸を紹介しています。  六華苑といえば、洋館にある塔がシンボルとなっています(右写真)。コンドルはもともとこの塔を3層で設計しましたが、できた塔は4層。一体何があったのでしょうか?・・・17日付の新聞特集をご覧ください。

 次回の「博学〜博物館で学ぶ〜」は、楽翁公百年祭記念宝物館(桑名市)を紹介します。WEBは4月23日(土)更新、新聞特集は4月24日(日)掲載予定です。

<施設案内>
六華苑・旧諸戸清六邸
開苑時間9:00〜17:00
入苑料 一般大人310円、中学生100円
団体大人260円、中学生50円
※団体は20名以上

桑名市大字桑名663-5 〒511-0009
TEL 0594-24-4466 / FAX 0594-24-4627
http://www.intsurf.ne.jp/~rokkam/
伊勢湾岸自動車道湾岸桑名ICから車で約15分
伊勢自動車道桑名ICから車で約15分
JR・近鉄桑名駅から徒歩約20分
桑名駅からKバス(市コミュニティバス)桑名東部ルートに乗り、六華苑バス停下車すぐ





[戻る]      [トップ]      [ホーム]