<41>旧長谷川邸

 今回紹介するのは、松阪市中心部にある旧長谷川邸です(右写真)。
 松阪市中心部の本町・魚町周辺は、三井家、小津家、長谷川家など「豪商」と呼ばれた松坂商人たちが多く邸宅を構えたところです。古い町並みが残り、ところどころに当時のおもかげが残っています。
 その松阪市本町に1月23日、小公園「豪商ポケットパーク」がオープンします。かつて江戸日本橋のほとんどを占めた伊勢商人たちのふるさと・松坂に、新たなシンボルとなる小公園ができます。
 ということで、今回と次回の2回にわたって、松坂の豪商にちなんだ施設を紹介します。今回紹介する旧長谷川邸は、江戸時代に豪商として名をはせた長谷川家の商家建築がきれいに残る建物です。平成25年に市に寄贈され、一般に公開されています。松坂商人の豊かさを実感できる施設でもあります。

◆長谷川家の歴史
 寛永12(1635)年、長谷川分家の布屋市左衛門が江戸大伝馬町(現在の日本橋付近)で木綿仲買商を始めました。延宝3(1675)年に長谷川本家3代目の正幸が大伝馬町一丁目で木綿仲買商として独立。これが長谷川家の創業とされています。
 正幸は創業後、江戸店の経営をすべて支配人に任せ、松坂に戻りました。「商いは江戸で、主人は松坂で」という松坂商人ならではの商売スタイルがこの頃にはすでに確立されていたようです。
 長谷川家は伊勢商人の中でもいち早く江戸に進出した方で、その後5店舗の分店を持つなどして規模拡大していき、木綿のほか米、雑穀、干鰯、たばこなど幅広い商品を扱いました。江戸での商いは成功を収め、いつしか「豪商」と呼ばれるまでになりました。
 一方、松坂では紀州藩の御為替組御用を勤め、50人扶持を下賜されました。
 明治後は、10代元章が明治13(1880)年に東京木綿呉服問屋組合の副頭取に就任。11代定矩は大正4(1915)年に東京5店を合併し、その後株式会社長谷川商店と改めました。12代元収は昭和45(1970)年にマルサン長谷川商店株式会社と社名変更し、現在に至っています。

◆商売が成功するたびに拡大する邸宅
 長谷川家が松坂に移り住んだのは江戸初期のこと。その当時の魚町周辺は「ウナギの寝床」といわれるような、細くて狭い町屋が集まっていたところで、長谷川家もそのような町屋の1つにすぎませんでした。
 この一帯は松坂商人たちが軒を並べていたところですが、一口に松坂商人といっても、すべての家が成功を収めていたわけではありません。中には藩への御用貸しなどから廃業に追い込まれる家もあり、ところどころに空き家が出てきます。
 商売で成功を収めた長谷川家は、財ができるたびにそういった空き家の買収を繰り返しました。江戸末期までに隣接地4軒分を買い取り、もともとあった長屋と合わせて5軒分の広大な屋敷地を獲得するに至りました。現在、敷地内には土蔵が5棟ありますが、それがその証といえます。
 さらに明治以後、邸宅の西隣にあった奉行所が払い下げとなったため、その地も購入。そこに回遊式の庭園(右写真)や、松坂城を眺めることのできる離れや茶室を構えました。
 ちなみに、江戸時代以来続く邸宅地と回遊式庭園の間に溝(背割下水)が走っています(右写真)。これは江戸時代、魚町(商人町)と殿町(武家町)の境界を示したものです。




◆豪商は地域文化の担い手?
 敷地面積約4700uもあるというだけあって、めぐっているとその広さを実感します。建物だけでも5棟分もあるので、20以上の部屋数があります。
 中でも大正3年に建てられた「大正座敷」(右写真)は最も格調高いものです。唯一2階建ての構造となっていて、すぐ前には板塀に囲まれた庭園があり、落ち着いた雰囲気を醸し出しています。


 回遊式庭園内には社(右写真)があって、長谷川家の「稲荷神」と魚町一丁目の「山の神」を合祀しています。祭のときは今もこの場所を開放して、地元の方々が集まります。地域の文化や信仰を守っていたのも、こういった豪商と呼ばれる人々だったのでしょう。

 1月17日付の伊勢新聞「博学」コーナーでも、旧長谷川邸について詳しく紹介しています。特に豪商の象徴ともいえる大判・小判は見ものです。
 次回の「博学〜博物館で学ぶ〜」は、松阪商人の館(松阪市)を紹介します。WEBは1月23日(土)更新、新聞特集は1月24日(日)掲載予定です。

<施設案内>
旧長谷川邸(松阪商人長谷川治郎兵衛家旧宅)
開館時間フリー公開 日・祝日 10:00〜16:00
団体公開 月・金曜日(要予約)
観覧料無料

松阪市魚町1653 〒515-0082
TEL 0598-53-4393(松阪市教育委員会事務局文化課)
伊勢自動車道松阪ICから車で約10分
JR・近鉄松阪駅から徒歩約15分
松阪駅より三重交通バス・本町バス停下車徒歩約2分
市街地循環バス(鈴の音バス)左回り乗車・プラザ鈴バス停下車徒歩約3分





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