<9>斎宮歴史博物館

 明和町では6月6〜7日に「斎王まつり」が開催されます。斎王が、京の都を離れて伊勢に向かう「斎王群行」が華やかに再現され、きらびやかな平安絵巻が展開されます。
 そこで今回の「博学〜博物館で学ぶ〜」は斎宮歴史博物館を紹介しましょう。
 国史跡斎宮跡が4月に日本遺産として認定されたばかりで、さらに秋には斎宮駅やや東に3棟の復元建物が完成します。これから斎宮が注目の的です!
 31日(日)付の伊勢新聞「博学」コーナーでも斎宮歴史博物館を紹介します。が、斎宮については調査や研究が飛躍的に進んでいて、紹介しきれないくらい話題は豊富です。ですから、今回の「博学」WEB版は、新聞に書ききれなかった話題を中心に紹介しようと思います。31日付の新聞と合わせてご覧ください。
 ただ、それでもまだまだ書き足りません。ぜひ実際に博物館に足を運んでみてください。

◆そもそも斎王って?どんなことをしてたの?
 三重県の人なら「斎王」「斎宮」という言葉は、一度は聞いたことがあると思いますが、ここでおさらいです。飛鳥時代〜鎌倉時代にかけて、天皇の身代わりとして伊勢神宮に仕えるために派遣された皇族女性を「斎王」と呼びます。天皇が即位するたびに、皇族の独身女性の中から占いで斎王が選ばれ、約1年間俗世から離れて身を浄め、伊勢へと旅立ちました。その斎王が暮らしていた宮が「斎宮」です(右写真)。ここでも世俗から離れ、もっぱら神に仕える毎日を送っていました。
 斎王の最も重要なつとめは、9月の神嘗祭(かんなめのまつり)と6・12月の月次祭(つきなみのまつり)の年3回、伊勢神宮へ参って祭に参加することでした。それ以外は斎宮内にずっといましたが、都(平安京)の宮中行事にならった各種行事や儀式を行っていました。

◆斎王に選ばれることはステータス!?
 おそらく現在の多くの方が持つ斎王に対するイメージは、都を離れてうら寂しい田舎で神に仕えるために幽閉された哀れな女性像ではないでしょうか。
 ところがそうではありません。この地で、都と同じくみやびで華やかな生活をしていたことが分かってきました。しかも斎王は国家を背負うプライドを持っていて、斎王として選ばれること自体ステータスだったようです。
 そのことを象徴するものの1つが、斎王まつりの華ともなっている「斎王群行」ではないでしょうか。博物館の展示(右写真)や映像展示でも斎王群行が再現されていますが、京の都から斎王が伊勢に向かう時、斎王に仕える女官たちが数百人も斎王につき従ったのです。1人の斎王のためにこれだけ多くの人が同行し、きらびやかな衣装をまとって華やかな行列をなしていたのですから、これはただごとではありません。

◆とても恵まれていた斎宮
 斎宮は、伊勢神宮に仕えるためにつくられた古代国家の出先機関で、いわゆる官庁街(オフィス街)でした。財源も東海道・東山道18カ国から調達され、国家予算の中でも恵まれた配分を受けていました。財政的には安定していたようです。
 古文書からも、斎王たちの衣食住の様子などが断片的に分かってきてはいますが、さらに斎宮跡の発掘調査から都にしかないような高級品の数々が出土するなど、都の文物がかなり持ち込まれていたことが判明しています(右写真。全国でも珍しい羊形硯)。都の貴族たちと変わらない生活ぶりでした。京の都に匹敵するぐらい、いや都そのものがここにあったといってもいいくらいです。

◆政治動向に翻弄された斎宮
 そんな斎宮ですが、歴史をひもとくとその時その時の政治動向に翻弄された様子がよく分かります。
 平安中頃までは天皇も伊勢神宮も、国家の中で非常に高い位置づけだったので、斎宮も豊かで非常に恵まれていました。
 ところが平安中期の10世紀後半以降、斎宮は次第に衰退します。平安末期の12世紀には源平の内乱があって斎王が置かれないこともありました。鎌倉時代には承久の乱で天皇方が鎌倉幕府に敗北して以降、天皇家の地位が相対的に下がったのか、天皇が替わってもすぐには斎王が置かれなかったり、あるいは斎王を置かない天皇もいました。斎王制度の存在意義が揺らぎ始めたのです。
 鎌倉幕府滅亡後、後醍醐天皇による建武の新政が行われ、天皇の復権、斎王制度の復活を計画しましたが失敗に終わり、本格的な武家社会が到来したこともあって斎王制度は終焉を迎えます。人もいなくなった斎宮は朽ち果て、現在のような農村的な景観になっていったようです。
 斎王制度は、天皇や伊勢神宮の、国における位置づけと密接に結び付いていて、そうした政治動向に翻弄され続けてきたともいえます。

 次回は、いつきのみや歴史体験館(明和町)を紹介します。WEBは6月6日(土)更新、新聞特集は6月7日(日)掲載予定です。

<施設案内>
斎宮歴史博物館
開館時間9:30〜17:00
休館日月曜日(祝日除く)祝日の翌日(土日曜除く)、年末年始
観覧料  大人一般340円  団体260円
 大学生一般220円 団体180円
 高校生以下無料

 ※団体は20名以上

多気郡明和町竹川503 〒515-0325
TEL 0596-52-3800 / FAX 0596-52-3724
http://www.bunka.pref.mie.lg.jp/saiku/
近鉄斎宮駅から徒歩で約15分
伊勢自動車道玉城ICから車で約20分





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