2019年3月10日(日)

▼「盗人を捕へて見ればわが子なり」は室町末期の連歌師、山崎宗鑑が「切りたくもあり切りたくもなし」の上の句に付けた下句という。意外な展開に困る例えとして伝わるが、親しい者でも油断できぬという意味も含む

▼カッターナイフを持って三交タクシー本社に立てこもって逮捕された同社の運転手で労働組合書記長に対し、建造物侵入罪と威力業務妨害罪で津署に告訴する考えを示した同社社長の心の内はいかがか。告訴予定の罪状からは、我が子と赤の他人との区別はもちろん、親しい者か憎むべき輩なのか、どう認識しているかうかがえない

▼「会社と労働組合の交渉でもめていて自殺してやろうと思った」と書記長は供述しているという。労使交渉から派生した事件なのだろう。書記長といえば役割は労組の頭脳というのが相場だが、何とまあ短絡的な行動か。会社側から一方的に押し切られるに違いない

▼大型の労働争議が連発した昭和30年代、ストライキで封鎖した会社・工場を解除しようとして会社側が実力行使に出る際、先陣を切るのが暴力団だったケースは多い。会社側の労組対策の進化、組合離れで「スト」が死語になる中で、書記長が切羽詰まって暴走したとすれば時世時節である

▼運輸業の過重労働が指摘され始めた一昨年秋、三交タクシー運転手らは三重一般労組に加わって待遇改善のストを決行した。それから一年余の津営業所などの閉鎖。上部団体の三重一般はどう見、指導したか。かつて県労働界の雄だった三重交通グループで発生した事件は労組の体力低下を象徴している気もする。