<まる見えリポート>伊勢・参宮のぼり旗撤去 改元控え揺れる市観光部

【御大礼奉祝委員会が設置し、政教分離の観点から「不適切」として、撤去されたのぼり旗=伊勢市役所で(1月8日撮影)】

皇室と関わりの深い伊勢神宮がある三重県伊勢市で、5月の改元を祝うため、市や伊勢商工会議所など官民でつくる御大礼奉祝委員会(会長・鈴木健一市長)が市役所など市内4カ所に設置した「国民総参宮」ののぼり旗を、市が政教分離の観点から「不適切」と判断し、全て撤去した問題で、市の観光部門が揺れている。「伊勢を紹介する上で伊勢神宮は欠かせない存在」(市観光部門幹部)として積極的に関わってきたからだ。

市産業観光部によると、のぼり旗の撤去を受け、同部では観光事業と宗教との関わりについて神経質になっているという。例えば、毎夏開催し、昨年66回目を迎えた伊勢神宮奉納全国花火大会(市など主催)。職員からは「市が関わる事業で奉納という言葉を使っていいのか」と疑問の声が上がっているという。

「それぐらい神経質になっている。観光PRで伊勢神宮を外すことは考えられないが表現には敏感にならざるを得ず、現場が萎縮しないか心配だ」と話すのは同部の須崎充博理事。市営海水浴場の海開きの安全祈願祭に公費の投入がないかなども確認したといい「これまでの観光行政のあり方に問題がなかったかを一から見直している」。

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のぼり旗を設置した同委員会は昨年6月に発足。会長を鈴木市長が務め、上島憲商議所会頭が委員長を務める。年間を通じ、さまざまな奉祝事業を展開する予定で、その第一弾がのぼり旗の設置だった。市役所や商議所、市内の主要駅に先月28日、計59本を設置したが、報道陣からの指摘を受け10日ほどで撤去することになった。

問題となったのは「国民総参宮」の表現と、のぼり旗を市役所に設置したこと。鈴木市長は「憲法上問題は無いが」特定の宗教への参拝を促すかのような「誤解を招きかねい表現」と判断し、委員会に市役所への設置を許可したことを「不適切」と認めた。

今回の撤去を受け、同委員会も今後の対応を検討しており、21日に商議所で会議を開いて協議する。他団体が主体となってのぼり旗を再使用することなども検討しているという。

また、委員会は4月に現在の天皇陛下への感謝、10月には新陛下への祝いの意味で、伊勢神宮内宮に記帳所を設ける予定だったが「参拝の誘導につながるのではないか」との懸念から、同日の議題に加え、のぼり旗の扱いと合わせて協議する。

皇室と縁の深い伊勢だからこそ発足した委員会だが、スタートからつまずいた格好だ。観光分野への波及を含め、問題にどう決着をつけるかが注目される。

皇學館大現代日本社会学部の新田均教授(憲法学)は「どこの市町でも著名な寺社仏閣を地域の活性化につなげるために広報している。市が観光振興のために伊勢神宮を広報することは、特定の宗教の信仰を助長する行為ではなく、政教分離の原則に反しているかを問う『目的効果基準』から見て何の問題も無い」と指摘している。