<まる見えリポート>交通空白地帯、解消へ 紀北町・あいのり運送事業

【パソコンに映し出された利用者と運転手の現在地を確認する職員=熊野市有馬町の三重交通南紀営業所で】

【北牟婁郡】三重県紀北町は、地域の住民が空いている自家用車を使って移動手段に困る人を送迎する「あいのり運送事業」の実証実験をこのほど始めた。公共交通の空白地帯での移動手段対策として、9月中旬から12月下旬まで約3カ月間運用する。町企画課は「終了後に結果を分析し、続けてほしいという声が多ければ本格的に開始したい」と話している。

平成28年12月末、町内唯一のタクシー事業者だった「紀勢交通」が経営の悪化を理由に廃業した。過疎や福祉タクシーなどの増加、飲食店の減少が要因とみられる。

交通空白地帯を解消しようと、町、三重大学、三重交通でつくる「紀北町相乗り運送運営協議会」(会長・尾上壽一町長)が主体となり、事業を開始した。事業は町が総務省のシェアリングエコノミー活用推進事業にあいのり運送事業を提案して採択され、委託料700万円を受けて実施している。

事業では、住民の空いた車と時間を使って目的地まで送迎する。海山地区と紀伊長島地区に分けて運行し、バス停と駅が半径500メートルにない空白地域をそれぞれ6エリアずつ回る。運転手は、海山が3人、紀伊長島は6人。いずれも60―70代の男性。公募はせず、町が自治会などを回って運転手登録を依頼した。

利用者は町に会員登録する必要があり、会員は海山で26人、紀伊長島で101人いる。片道料金は一つのエリア内の移動で300円、エリアから別のエリアまでの移動は最高で1500円。通常のタクシーのほぼ半額に設定しているという。運行時間は午前9時―午後5時。

事業にはGPS(衛生利用測位システム)トラッカーを取り入れている。GPSトラッカーは運転手と希望する会員が所持。利用者はGPSトラッカーのボタンを押すと、利用者の現在地が、配車業務を担う三重交通南紀営業所(熊野市有馬町)に伝わり、最も近い場所にいる運転手が迎えに行く仕組み。

同町東長島の村口良子さん(79)と近くに住む村口ヒメ子さん(75)は週に一度、あいのり運送を利用する。主にスーパーに買い物に出かける目的で使うという。

良子さんは普段、原付バイクを運転しているが、雨の日や買い込む量が多い時などはバイクが運転できず、JR紀伊長島駅までは歩いて行けないため困っていたという。「運転手さんは地元の方で優しく、家の前まで送迎してくれるので大変助かっている」と話す。

一人で暮らすヒメ子さんは運転免許証を取得しているが、いずれ運転できなくなることを考え、あいのり運送を利用することにした。ヒメ子さんは「足が悪く重たい荷物を運べないので、運行を続けてくれたらうれしい」と期待する。

一方、事業を続ける上で、運転手の確保が課題となる。運転手は運賃はもらえるが、ガソリン代は運転手が払わなければならない。運転手を務める和手恒一さん(65)は「少子高齢化が進む地域で、互いに助け合う取り組みは必要。これからますますあいのり運送は必要になってくると思う」と話す。

同課の奥村京英係長は「運行はスムーズに行えている。あいのり事業があると、免許証の返納がしやすくなるのではないか。利用者と運転手の話を聞くなどし、事業を検討したい」と話している。