伊勢 石灯籠への衝突事故 過去に7件、死者も 問われる行政の危機管理 三重

【石灯籠上部が落下した死亡事故現場。花や水が供えられている=伊勢市楠部町で】

【伊勢】三重県伊勢市の県道沿いの石灯籠に路線バスが接触し、落下した上部の直撃を受けた男性が死亡した事故で、車などが石灯籠に衝突する人身・物損事故が今回の死亡事故以前に少なくとも七件あったことが29日までに、国、県、市の調べで分かった。うち5件は行政が石灯籠の安全点検を開始して以降のここ5年以内に発生。危機管理の専門家は「いずれ死亡事故につながることは予見できた」と指摘する。死亡事故を受け、行政は残る500基余りの全撤去を決めたが、これまでの危機管理のあり方が問われそうだ。

県と市によると、昭和60年3月から平成28年12月までの間に死亡事故1件、物損事故5件が発生。他に国道23号沿いでも事故が1件あったとみられるが、国土交通省三重河川国道事務所に記録がないため、詳細は不明だ。

県は今回の死亡事故を受け、過去の事故を調べ、以前にも死亡事故が起きていたことを明らかにした。昭和60年3月の死亡事故では、乗用車が同市中村町にあった石灯籠に衝突し、助手席にいた同乗者1人が死亡したという。

物損事故5件中、3件は25年8、9月に約1週間から10日の間隔で県道沿いで相次いで発生。バスや軽乗用車が石灯籠に衝突して倒壊したり、今回の死亡事故と同様に石灯籠の上部だけが落ちたりした。木が石灯籠に倒れかかり、石灯籠の上部が落下する事故もあった。

もともと、行政は石灯籠が災害時に倒壊する危険性が高いことを認識しており、国、県、市は25年から石灯籠の安全点検を開始。傾きやぐらつきがある石灯籠を「危険」と判断し、取り除いてきた。

一方、物損事故は全て行政が安全点検を始めた以降に起こった。物損事故から「危険」を想定し、死亡事故を予見できなかったのだろうか。

県道路管理課の上村告課長は「石灯籠の危険性は認識していたが、道路標識や電柱への衝突など、物損事故はたくさんある。石灯籠の物損事故だけを特別視し、死亡事故につながるとは考えられない」と話す。

伊勢市都市整備部の上田淳一維持課長は、石灯籠の危険性を認めつつも「存続を望む市民の声もあり、物損事故を受けて即座に全撤去に踏み切れなかった」と語る。

「物損事故が起きた時点で速やかに全ての石灯籠を撤去していれば、今回の死亡事故は起こらなかった」と述べるのは国交省三重河川国道事務所の鈴木克章副所長。行政の対応が不適切だったかどうかについては回答を控えた。

一方、識者は行政の不備を指摘する。

人命に関わる重大事故を未然に防ぐための「失敗学」を研究する東大院工学系研究科の中尾政之教授は「行政が危険性を認識していたのであれば、耐震補強工事か早期の全撤去が望ましかった。撤去をする上で、行政が石灯籠の所有者でないことが問題なら、撤去するための条例を作ればよかった」と話している。

愛知県立大看護学部の清水宣明教授(危機管理学)は「過去事例に学び、同じ事故を起こさないことは危機管理の基本中の基本。死亡事故は予見できた」とした上で、「石灯籠は伊勢の景観を考える上で文化的遺産。耐震補強をするなど適切に管理していれば、死亡事故で失うようなことにはならなかった」と指摘している。