2017年9月13日(水)

▼相場の格言は人の心理を鋭くえぐる。『株式展望』欄で「相場は悲観のもとで生まれ、懐疑のなかで育ち、楽観のなかで成熟し、陶酔感のなかで消えていく」という米国の伝説の投資家の言葉が紹介されていた。アルゼンチンやベネズエラ債に群がる現状を「楽観のなかで成熟」している段階ではないかというのだ

▼日本にも「人の行く裏に道あり花の山」という有名な格言がある。「悲観のもとで生まれる」すなわち誰も見向きもしない山に入り込まねば花への道にはたどりつけないという意味だ。歴史上の英雄も、誰も論じる対象とすらしない選択を成功させている。織田信長の桶狭間の戦いや、豊臣秀吉は朝倉・浅井連合軍の挟撃にしんがりを名乗り出ている

▼一世一代の賭けは絶体絶命の危機の中から生まれることが多いが、明智光秀の本能寺の変は、旧主足利義昭の誘いに応じた「室町幕府再興のためにクーデター」だと、紀伊雑賀衆の武将土橋重治への手紙に基づき、三重大学の藤田達生教授が提唱した。義昭は打倒信長を目指し、京都追放後も反信長勢力へ挙兵を呼びかけたことで知られるが、義昭を一度は見限った光秀にまで、誘いの手は延びていたということらしい

▼日本史の謎とされる本能寺の変の光秀の動機が、何度も信長排除に失敗している義昭に味方することだとしても、そこに至る理由の謎については、依然残るということではあろう。窮地の中でこそ人は一世一代の賭けに出る、悲観のもとだったか、楽観の中で陶酔を夢見たか。なかなか成り難いから英雄であるということを教えてはくれる。