<まる見えリポート>伊勢市生活サポート「あゆみ」 ごみ屋敷解決へ取り組み

【玄関先にまであふれ出した大量のごみ。ごみの山が「かまくら」の機能を果たし、男性はここで寝泊まりしていた=伊勢市で(あゆみ提供)】

家の中や敷地内に廃棄物が充満する「ごみ屋敷」が社会問題化する中、三重県の伊勢市社会福祉協議会は4月から、ごみ屋敷などの解決を専門とする市生活サポートセンター「あゆみ」を立ち上げ、解決に向けた仕組み作りを進めている。当事者が「ごみ」と認めない限り、財産権や自由権の観点から行政や社協の介入が難しい面があり、対処するための新しいルール作りが求められているからだ。解決のめどが立たない事例も多い中、試行錯誤する現場の取り組みを追った。

(倉持亮)

「誰かに手をさしのべてほしいと思う反面、『ごみ屋敷』のままでもいいと思っていた。今は支えてくれる人たちのためにも自立したい」―。伊勢市内の「ごみ屋敷」で暮らす男性(55)は部屋を片付けながらこう語った。少なくとも12、3年前から大量のごみの中で暮らしていたという。

片付けのきっかけは5月中旬、巡回中の伊勢署員が散歩中の男性を保護したのが始まりだ。男性は数日間、何も口にしておらず、衰弱していた。同署地域課の男性巡査部長(45)は「ふらふらと歩き、具合が悪そうだったので(男性の)家まで連れ帰った」と語る。家の状態を見て地区の民生委員に連絡した。

民生委員が市社協職員らと共に男性宅を訪問すると、家の外にまであふれ出した雑誌や空になったカップ麺、ペットボトルなどの生活ごみが辺り一面に散乱していた。玄関の軒先には雑誌などで作った「かまくら」があり、男性はここで寝泊まりしていたという。2階の2部屋も衣類などが天井に付くぐらいの高さまで積まれ、階段も完全にふさがっていた。

社協職員らは、男性から「ごみ屋敷」の掃除の同意を得て、市清掃課へ連絡した。自治会にも協力を求め、男性と共に大規模な掃除を5月下旬から6月下旬に掛け3回実施。地域の企業も加わり、総勢81人が参加した。

周囲の支援が実を結び、男性宅の目立ったごみは片付いた。男性は今、1人で衣類などを整理する傍らハローワークで職を探している。

■    ■
ごみ屋敷問題が各地で広がる中、背景には当事者の地域からの孤立や家族関係の希薄化が浮かび上がるケースが多い。伊勢市の男性も、弟と妹がおり自宅周辺に親戚もいるが、大半は交流が途絶えて久しい。兄弟とは両親の死後、疎遠になり、男性は「(交流があれば)こんなことにはならない」と話した。

男性や関係者から話を聞くと、男性を取り巻く環境の変化と、どう接すれば良いのか分からなかった周囲の戸惑いが浮かび上がる。

男性は大学卒業後、大手企業に就職。10年ほど勤めたが体調不良で退職し、職を転々とした。16年前に母親が亡くなると「父親も既に亡く、長男として親戚と付き合っていくことにプレッシャーを覚えた」と明かした。その後は「売れるかもしれない」と考え、雑誌類などを集めだし、現在の生活に至ったという。

男性は「昔から片付けや物を捨てるのが苦手。最初は売るつもりでいろいろ集めたが次第にごみと思うようになった」と振り返る。

一方、住民は男性宅がごみ屋敷化することに気付いていたが、悪臭などの目立った被害がなかったため、静観していた。男性を幼い頃から知っているという近くに住む女性は「かわいくて優しい子だったが、なぜ(家が)あんな風になったのか」と首をかしげる。

行政の介入も難しい。生活保護などを担当する同市生活支援課の山﨑幸喜課長は「行政はどうしても動く際に公平性の担保が必要になる」と漏らす。ごみ屋敷の住人が他人に迷惑を掛けたり、ごみ屋敷が理由で生命に危害が及んだりしない限り、介入の根拠がとぼしくなり、動こうにも動けない実態もあるようだ。
■    ■
「あゆみ」によると、4月から8月末までに、同センターには今回の男性を含め10件のごみ屋敷に関する相談が寄せられている。全国的には地域や行政の支援を拒む人も珍しくないという。

こうした現状を受け、京都、横浜両市や東京都世田谷区、足立区など、ごみ屋敷解消のための条例を設けた自治体もあり、行政が関わるためのルール作りも進んでいる。伊勢市では、あゆみが中心となり、関係機関との役割調整を検討している。同センターの嶋垣智之センター長(42)は「今回のケースを参考にしながら誰が関わっても解決できるような仕組みを作りたい」と語った。

SOSを発信しにくい生活困窮者への支援を研究している愛知県立大学看護学部の下園美保子講師(公衆衛生看護学)は「親しい人の死によって喪失感を覚えたり、職を失ったりすれば誰でも陥る恐れがある」と指摘。その上で「行政だけでは解決できない。地域の方には『ごみ屋敷』に気付いたら社協や保健師など専門家に連絡してほしい。問題の発見が解決への一歩につながる」と話している。